★ 星座神話 ★
【さそり座】
ギリシャ神話によると、この星座は猟師オリオンを刺し殺した蠍の姿と伝えら
れています。
猟師オリオンは、いつも「天下に自分ほど強い者はいない」と、高言していま
した。それを耳にした女神ヘーラ(大神ゼウスの后)は大そう腹を立て、日頃か
ら、あまり快く思っていなかったオリオンを懲らしめようとオリオンの歩く山道
に蠍を放ちました。蠍は、何も知らずにやってきたオリオンの足に、ヘーラに言われた通り毒針を
突き刺したのです。蠍の猛毒に触れては、さすがの勇者もたまりません。
たちまち全身に猛毒が回り、オリオンはあえなく息絶えてしまいました。
蠍はオリオンを刺し殺した功によって空に架けられ、夏の夜空を代表する黄道
星座としての栄誉を手に入れました。一方、彼に好意を寄せる月の女神アルテミスの願いで、大神ゼウスはオリオン
も星座にあげたのですが、オリオンは蠍を恐れてか、蠍が東の地平線に姿を見せ
ると急いで西に沈み、蠍が西に沈むと安心して東の地平線から姿を見せるように
なりました。
【蠍(さそり)の火】 銀河鉄道の夜(宮沢賢治)より
川の向こう岸がにわかに赤くなりました。やなぎの木や何かも真っ黒にすかし出され、見えない天の川の波も、ときどき
ちらちら針のように赤く光りました。まったく向こう岸の野原に大きな真っ赤な火が燃やされ、その黒いけむりは高く桔梗(ききょう)いろのつめたそうな天をも焦
がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおり、リチウムよりもうつくしく酔ったよう
になって、その火は燃えているのでした。
「あれはなんの火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう。」
ジョバンニが言いました。
「蠍(さそり)の火だな。」カンパネルラがまた地図と首っびきして答えました。
「あら、蠍の火のことならあたし知っているわ。」
「蠍の火ってなんだい。」ジョバンニがききました。
「蠍がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるって、あたし何べんもお
父さんから聴いたわ。」
「蠍って、虫だろう。」
「ええ、蠍は虫よ。だけどいい虫だわ。」
「蠍いい虫じゃないよ。僕博物館でアルコールにつけてあるのを見た。尾にこ
んなかぎがあってそれで刺されると死ぬって言っていたよ。」
「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さんこう言ったのよ。昔のバンドラの野原に
1ぴきの蠍がいて小さな虫やなんか殺して食べて生きていたんですって。する
とある日いたちに見つかって食べられそうになったんですって。さそりは一生懸
命逃げて逃げたけど、とうとういたちに押えられそうになったわ、そのときいきな
り前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがれないで、さ
そりは溺れはじめたのよ。そのときさそりはこう言ってお祈りしたというの。
ああ、わたしはいままで、いくつものの命をとったかわからない、そしてその私
がこんどいたちにとられないようとしたときはあんなに一生懸命逃げた。それで
もとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたし
はわたしのからだを、だまっていたちにくれてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらんください。こんなにむな
しく命をすてず、どうかこの次には、まことのみんなの幸いのために私のからだ
をおつかいください。って言ったというの。そしたらいつか蠍はじぶんのからだが、真っ赤なうつくしい火になって燃えて、よるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さんおっし
ゃったわ。ほんとうにあの火、それだわ。」
「そうだ。見たまえ。そこらの三角標はちょうどさそりの形にならんでいるよ」
ジョバンニはまったくその大きな火の向こうに三つの三角標が、ちょうどさそり
の腕のように、こっちに五つの三角標がさそりの尾やかぎのようにならんでいる
のを見ました。そしてほんとうにそのまっ赤なうつくしいさそりの火は音なくあか
るくあかるく燃えたのです。