★ 星座神話 ★

【ヘルクレス座】


 昔、ギリシャに、アンドロメダ(アンドロメダ座)の娘で、アルクメーネという美しい王女がいました。 アルクメーネはアンピトリュオンと結婚してました。しかし、ギリシャ第一の神である大神ゼウスは、アンピトリュオンが旅に出たのをよいことに、アンピトリュオンに化けて、アルクメネとともに、時を過ごしました。 しばらくして、アルクメーネは子供を身ごもりました。 そして、生まれた子供が、ヘルクレスなのです。そうです。 ヘルクレスは、アンピトリュオンに化けたゼウスが、アンピトリュオンの妻アルクメーネに、生ませた子供です。 それを知った、ゼウスの后ヘーラは、生まれてきたヘルクレスに深い憎悪を抱きました。
 そして、ヘルクレスが赤ん坊の時、ヘーラは、ゆりかごの中に、2匹の毒蛇を放ちます。しかし、蛇が襲いかかろうとした時、赤ん坊のヘルクレスは、 2匹の毒蛇をそれぞれ片手で握りつぶしてしまいます。 ヘルクレスは、赤ん坊のうちから怪力の持ち主だったのです。
 一方、アンピトリュオンは ヘルクレスが自分の子供ではないことがわかっていましたが、それでも一生懸命に教育しようとしました。 しかし、ヘルクレスはあまりにも乱暴なため、 アンピトリュオンも、ついに堪忍袋の緒が切れてしまい、 ヘルクレスを奥深い山へと追いやってしまいました。
 こうして羊飼いになったヘルクレスですが、 大自然の中で、運良く出会った、ケンタウロス族のケイロンの教育を受け、 立派な青年に成長したのでした。 しかし、あるとき、 ヘルクレスはヘーラの呪いで気が狂ってしまい、 自分の最愛の妻と子供たちを殺してしまいました。

 深い悲しみと強い衝撃を受けたヘルクレスは、自分の罪の償うため、 エウリステウス王に仕えて、 命ぜられるままに『12の困難な冒険』へと、出かけることになりました・・・。

〜ネメアの森の化け獅子(しし座)退治〜
 その最初の冒険が、「ネメアの森の化け獅子退治」でした。怖いもの知らずのヘルクレスは、 弓と棍棒を持って、ネメアに出かけていきました。ネメアのどこに化け獅子がいるのか、付近の住人に尋ねますが、みな恐れおののき、 逃げていってしまいます。仕方なく、ヘルクレスは森の中で化け獅子を待ち伏せることにしました。7晩目の夜、 ヘルクレスの前に、何を食らっていたのか、たて髪と舌を血まみれにした化け獅子が現れました
 ヘルクレスは獅子が十分近づくのを待ち、狙いを定めて弓を射ました。弓は確かに獅子に命中するのですが、 岩や鉄板に当たったように、獅子の体ではね返ってしまいます。獅子はヘルクレスに気付くと、ひと際、大きな雄叫びをあげ、 猛然と襲いかかってきました。弓で傷付けられない不死身の体を持っていることを悟ったヘルクレスは、 棍棒を振り上げ獅子の頭をめがけてひと振りしました。 この棍棒は、ネメアの森に来る途中、カンランの大木を根ごと引き抜き作ったものです。棍棒とはいえ大木そのものであるし、 第一、大木を素手で引き抜くほどの腕力で頭を一撃したのです。棍棒は木端微塵に砕け散りましたが、獅子もただでは済みません。 よろめき、意識を朦朧とさせました。ヘルクレスは、ひるんだ一瞬を見過ごさず、獅子の喉を掴んで、 全身の力を込め、両手で締め上げました。ギリシャ一の怪力で首を締め上げられた化け獅子もたまったものではありません。 ついに口から泡を吹き、息絶えてしまいました。
 ヘルクレスはその獅子の皮を剥ぎ肩に掛け、首を切って兜のようにかぶって、王宮に戻ったから大変です。 12の冒険を命じたエウリステウス王は、恐れおののいて宮廷の奥深く逃げ込んだと伝えられています。

〜アミモーネの沼のヒドラ退治〜
 2つ目の冒険がヒドラ退治です。アミモーネの沼地に蔓延り、 毒気を撒き散らし、人々を悩ませていた海竜ヒドラに、ヘルクレスは戦いを挑みました。 ヒドラには九つの首があり、一つは不死身で、残りの八つは切り落としても何度も生えてくるという恐ろしい首でした。
 アミモーネの沼地へ赴いたへルクレスに、彼を憎むヘーラがヒドラの加勢として送り込んだのが、 石臼ほどもある大きな化け蟹でした。
 化け蟹は大きなハサミを振り上げ、ヘルクレスの足を挟もうとしたのですが、 ヘルクレスにはかないません。蟹は、あっけなくヘルクレスに踏み潰されてしまいました。その様子を見ていたヘーラは、 化け蟹の功を認め、空に上げ、星座かに座にしたと伝えられています。
 残るヒドラに、へルクレスはするどい剣で首を切り落とそうとしますが何度も首が生えてきてしまいます。 そこで、八つの首はその切り口を焼き払い、また残りの不死身の首は大きな岩の下に閉じ込めることで、 ついに怪物ヒドラを退治することができました。
 うみへび座は、このヘルクレスが退治した怪物ヒドラの姿と言われています。


〜金の角,黄銅の蹄をもつケリュネイヤの牡鹿狩り〜
 3つ目の冒険は,金の角,黄銅の蹄をもつケリュネイヤの牡鹿狩りでした。 ヘルクレスはこのすばしこい鹿を1年間も追いつづけ、やっとのことで捕まえることができました。

〜エリュマントス山の大イノシシの生け捕り〜
 4つ目の冒険は、エリュマントスという山の大イノシシを生け捕りにすることでした。 この山では、秘蔵のディオニッソスの酒に口をつけたために ケンタウロスたちの妨害に会いますが、それを何とか乗り切り,大 イノシシを雪のなかに追い込んで捕えました。

〜アウゲイアスの牛小屋の掃除〜
 5つ目の冒険は、3000頭の牛が住むアウゲイアスの牛小屋の掃除でした。 この牛小屋は、3000頭も飼っているのに 30年間も掃除されたことがありませんでした。 そのため、糞が固まって石のようになっていましたが、 ヘルクレスは怪力で小屋に穴を開けると、 アルペイオスとペネイオスという、2つの川の水を流し入れて、 1日で掃除をすませてしまいました。

〜鉄の嘴と爪を持つステュンパデスという怪鳥退治〜
 6つ目は、ステュンパデスという怪鳥退治でした。 鉄の嘴と爪を持つステュンパデスは、ヘルクレスを警戒して 森から姿を現しませんでしたが、女神アテネーにもらった 黄金の太鼓を叩いてステュンパデスを驚かせて、 飛び立ったところを射落としました。

〜クレタ島の暴れ牛退治〜
 7つ目の冒険は、海から生まれた暴れん坊のクレタの牡牛を捕えることでした。 この牛は、海の神ポセイドンが クレタ島のミノス王に送ったもので、 ミノス王もほとほと手を焼いていたのですが、 牛はヘルクレスを見るなり すっかりおとなしくなってしまい、簡単に捕まえることができました。

〜ディオメデスの暴れ馬退治
 8つ目は、ディオメデスの暴れ馬を連れてくることでした。 この馬は単に乱暴というだけでなく、 人間まで食べてしまうという馬でしたが、 馬小屋に、この国のディオメデス王を投げ込んで食わせると すぐにおとなしくなってしまいました。

〜アマゾンの女王ピッポリュテの帯の強奪〜
 9つ目の冒険は、アマゾンの女王の帯を取ってくることでした。 エウリステウス王の娘アドメテが、 アマゾンの女王の帯をほしがったので、 ヘルクレスが取ってくることになったのです。 アマゾンというのは、戦争の好きな女ばかりの国で、ヘルクレスは、仲間をつれて いろいろな危険に出会いながら、アマゾンの国へとたどりつきました。 女王のピッポリュテは、ヘルクレス達を手厚く迎え、アレスから授かった大切な帯も、心よく譲ってくれることになりました。 しかし、アマゾンの女に変装していたヘーラが、 『ヘルクレスは女王をさらいにきたのだ』と騒いだので、女たちは、すぐに武装をして、旅立とうとするヘルクレスの船につめよりました。ヘルクレスはヒッポリュテに裏切られたのだとおもって、女王を切り殺し、 帯をもって、船に乗って逃げたのでした。

〜ゲリュオンの赤い牛の強奪〜
 10番目の冒険は、ゲリュオンが飼っていた赤い牛を連れてくることでした。 ゲリュオンというのは、 頭と胴が3つ、手が6本、足が6本、3対の翼を持つ怪物で、 はるか西の彼方の、紅島(エリュテイア島)に住んでいました。 ヘルクレスは、いろいろな国を旅して、アフリカとヨーロッパの境目まできた時、そこに、この旅の記念として、カルペとアビラという山をつくりました。 ゲリュオンの牛は、オルトロスという二つの頭を持つ犬と、 エウリュディオンという巨人が守っていましたが、 ヘルクレスは、巨人と犬を殺し、ゲリュオンも殺してから、 たくさんの牛を苦労しながら連れて帰ったのでした。

〜ヘスペリスの金のリンゴ探し〜
 11番目の冒険は、ヘスペリスの金のリンゴを取ってくることでした。このリンゴの木は、ゼウスの祖母ガイアが、ゼウスとヘーラの結婚祝いとして贈ったもので、金の枝にびっしりと金の実がなりました。このリンゴの木のまわりではニンフと、100頭の竜が見張りをしていて、 さらに木がどこにあるのかもわかりませんでした。 ヘルクレスは、やっとのことで海神ネレウスに道を教えてもらい、 アトラス山につきました。アトラスは神々に手むかった巨人のひとりでしたが、 征服されて、重い天を背負わせれていました。 アトラスは、リンゴのありかを知っているようなので、 ヘルクレスは、アトラスのかわりに天を支えることにし、 アトラスに、リンゴを採ってきてもらうことにしました。アトラスは、久しぶりに自由の身になれて、もう、天を背負いたくはありませんでした。しかし、 「ほんの、ちょっとの間、天を担ぎ替えるので肩を貸してほしい。」という ヘルクレスの口車にうっかり乗って、再び役目に戻ったのでした。

〜冥界の番犬ケルベロス狩り〜
 最後、12番目の冒険は、冥界の番犬ケルベロスを連れてくることでした。 ケルベロスは頭が3つで、尾が竜、 3つ首には蛇でできたたてがみがついているという、 おぞましい犬でした。冥界の王バデスから、 『武器を使わずに捕まえることができたら、 ケルベロスを地上に連れていってもいい。』 という許しをえたヘルクレスは、暴れるのをものともせず、しっかり捕まえて、 地上のエウリステウスのところまで、引いていったのです。

 ヘルクレスは、エウリステウス王の言い付け通り、『12の困難な冒険』を次々にやり遂げ、 ついに自由の身になりました。

 やがて、彼はディアネイラを新しい妻に迎えました。 2人で旅をしていたある日、河岸で、川渡しをしていたケンタウルス族の馬人ネッソスに出会いました。ネッソスは、ディアネイラを向こう岸に渡してあげようと言い、背中に乗せました。 しかし、ネッソスはそのまま彼女をさらおうと、駆け出しました。驚いたヘルク レスは、ヒドラの毒を塗った矢を放ちました。胸を貫かれたネッソスは、彼女に 、「自分の血は、惚れ薬の効果がある。いつまでも、夫と幸せに暮らしたいのなら、私の血をそっと取っておきなさい。もし、ヘルクレスが心変わりしたときには、自分の血を使うといい。」と告げ、息 絶えました。
 それから数年が経ち、ヘルクレスが戦利品として絶世の美女を得たとき、デイアネイラは、ヘルクレスの心変わりを恐れました。デイアネイラは、ネッソスの血を湯に溶かして、肌着に塗り、ヘルクレスに渡しました。ヘルクレスがその肌着を着けると、たちまち肌着が縮み始め、皮膚に食い込み、肉が剥がれ始めました。ネッソスの呪いの血は、肌着を凶器に変え、恐ろしい毒素は、傷口 から、どんどんヘルクレスの体内に入っていきました。 肉が剥がれようが、血が迸ろうが、毒が全身に回わろうが、簡単に息絶 えるヘルクレスではありません。それだけに、人一倍、苦しみ、もがき続けました。
 やがて、もう助からない命と悟った彼は、長い間、身に纏い、 彼を身を守ってきたネメアの森の獅子の皮を地面に敷き、最大の武器として、幾多 の困難を乗り越えてきた太い棍棒を枕にして、悠々と体を横たえました。そして、従者フィロクテテースに火を放つよう、命じました。しぶっていた従者フィロクテテースも、大粒の涙を流しながら獅子の皮に火を 放つと、ヘルクレスはにっこりと微笑み、勇者らしく燃え盛る炎の中で、静かに 目を閉じたのでした。そして、ディアネイラも、自分の愚かさを恥じ、何度も何度もヘルクレスに詫び、 やがて、涙の乾かないまま自らの命を絶ってしまいました。
 激しく燃えさかる炎を天上から見ていたオリンポスの神々は、一斉に女神ヘーラ に詰め寄りました。そして、ヘルクレスに対する憎しみのすべてを、ヘーラの脳裏から消し去りました。
 こうして、ヘルクレスは、空高く昇り、いつまでも、勇ましく棍棒を 振りかざし、天頂に輝く星座となりました。しかし、それでもまだ残っていた、ヘーラの呪いのため、ヘルクレス座は、ほかの夏の星座、こと座はくちょう座わし座などと比べ、ずいぶんと暗い星座になってしまったと言われています。